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「脳内麻薬01」という個人サークルで活動しています
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 短文。フィクション。編集する 2009年06月22日23:58 透明

肌にへばりつくような風が
さっきから僕の周りをまとわり続けている。
これが梅雨特有のアレか。
電車でいくつか乗り継いだ先にある学校のある、
駅についたが足が進まない。

雨はもう止んだし、そのまま行けばいいのだけれど、
昨日の事がどうもひっかかる。

「私、カイトのそういう所、好き」

帰ろうとした時、クラスメイトのヤマセと二人っきりになった
ヤマセは、特別美人というわけではないけれど、笑うととてもかわいい。
ショートカットで、手首にシュなんとかという髪の毛まとめるやつをつけている。
スカート丈はぎりぎりでセーフ。そこらへんの加減は心得ているのか。
顔は適度に手入れされていて、つやつやと唇は光っている。。

他愛の無い話をしていた。昨日聞いたミュージシャンの新譜とか
ドラマの話でもしていたのかもしれない。そんな中の
何気ない一言だった。でもそれが僕のどこか奥底につっかかった。
どういう所が好きなのか。

今年で十六になるのだが、自分というものを好きになれたためしがない。
誰かに嫌われないか、常日頃びくびくと怯えて生きている。

だからなるべく普通の格好をして普通のテレビを見て普通の音楽を聴き
普通と呼ばれる程度はしゃいで、目立ちもせず、しかし埋もれもせず、
学年で一番になれるわけではないが、まあ中間の成績をキープ。

本当は嫌だったのかもしれないが、自然とそうなった。

髪の毛はワックスを使って先生に叱られる事もないぐらい、適度に短い。
何がどこがどうやって、僕のどこが好きなのだろうか。

まったくわからない。

そのまま学校に行くのをやめて新宿へ降りた。
ここはいつでも人が多い。
化粧がどこまでも派手な女、ダンボールにくるまれて横になるおじさん。
ティッシュをはきはき配る女の子、昼間からなんとなくわけありな
おじさんとおばさん。おじさん、おばさん、おばあさん・・・
今の時間帯は高校生は少ない。
当たり前だ、普通は授業中なのだから。

人々は思い思いの目的地を目指して歩く。しかし僕のことを誰も気にするわけもない。
大勢の人の波に揉まれているのに、僕は独りで、
透明になっていく気がした。

「!!」
声にならない声をあげ立ちすくむ。
頬を伝う水滴は、ただ床に落ちて消えた。

僕は昔から透明になりたかった。なのに透明になった途端に泣き出すとは何事か。
馬鹿じゃなかろうか。自分でもよくわからない。

嫌われたくない、嫌われたくない。

自己があるということは、嫌われるということだ。

それならばその自己を消して、僕は透明人間になりたい。
そしてそのままなにもなかったかのように、皆の記憶から消えてなくなりたい。
遠まわしな自殺願望なのだろうか。

「カイト君?」
ヤマセだった。なんでこんな所にヤマセがいるんだろう。
見られたか?
体は真反対の方向に方向転換した。

逃げよう。

何故だかわからないけれど、顔をあわせたくない・・・。
しかしそうしようとした僕の腕をヤマセは両手でつかんできた。

「今日、学校さぼったでしょー、心配したんだよー?」
どうしたらいいのか、目をあわせられない。
僕はヤマセの少し緩ませたリボンタイを見て話した。
「なーんか、だるくなっちゃって。はは。ヤマセも?暑いよなー」
目を見て話せない癖はばれていないだろうか。
「やっぱり昨日の、気にしてる?ごめんね。ほんとついつい。
あ、でも告白ーとかそんな大したものじゃないから気にしないで。」

本当の所、好きだといわれるのはとても嬉しい。
それがヤマセなら尚更嬉しい。
でもそこにひっかかるものがあるのは・・・

「ヤマセは誰を見ているの?」

自分で言っておいて不思議な科白だ。

「誰って、カイトに決まってるじゃん」
反芻する。カイトに決まってる、カイトに決まってる、カイトに決まってる・・・

化粧をしていないまっすぐな睫に囲まれた瞳と、一瞬目があってしまった。
僕の内側にある何かどろりとしたものを見透かされているようで怖い。

「あは、はは、は、そうだよな。ありがと。」
僕はとっさにとりあえずそういって振り切って逃げようと思った。
しかし思いの他ヤマセの腕をつかむ力は強く、離してくれない。

「・・・」

「私、カイトがすごく無理して生きているの、わかってるつもり。
だって私もそうだから・・・君の瞳はいつも遠くを見てる。」

「でもそんな中にもカイトらしさはあって、私はそんなところが好きだよ。」

そのまま腕にヤマセが抱きつく。
ふわりと柔らかく暖かい、ヤマセのぬくもりを腕に感じた。

帰り道、そういえば好きだった、かもしれない
マリリンマンソンの話をして帰った。

僕よりもヤマセの方が詳しくて苦笑いをした。
いつもより空が広く見える。
どうやら透明人間になるのは失敗したようだ。

end

適当につくった一日一本話作るぞ企画。
リハビリです。
第一弾、透明
あ、完璧なフィクションです。

1夜道
2馨
3足跡
4空
5透明
6赤
7記憶
8酒
9オシロイバナ
10指
11夢
12薬
13なかよし
14ショーウィンドゥ
15時


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